第5回高槻市民いきいき健康講座「がん治療と口腔ケア」開催報告

2019年11月16日、大阪・高槻の大阪医科大学にて、高槻市、高槻商工会議所、大阪医科大学、サンスター財団の共催による第5回 高槻市民いきいき健康講座を開催しました。

第5回となる今回は「がん治療と口腔ケア」をテーマに開催、275名が参加しました。講演内容の概要をご紹介します。

講演1
大阪医科大学 医学部 内科学Ⅱ教室 准教授 後藤 昌弘 先生
令和時代のがん化学療法

令和元年はがんゲノム医療が本格稼働し、免疫療法もさらに進化した年です。がんの治療には手術、化学療法、放射線治療があり、化学療法には、治癒を目的としたもの、手術前後に行い、手術成績を上げるためのもの、症状緩和や延命を目的としたものの3種類に分けられます。さらに化学療法には細胞障害性抗がん剤(殺細胞性)と分子標的治療薬、免疫療法とがあり、1950年代から1980年にかけては、細胞障害性抗がん剤が進歩し、加えて副作用を減らすための様々な支持療法が進歩しました。

1990年代は、がん細胞が持つ特定の分子(遺伝子、たんぱく質)をターゲットにし、その部分だけに作用する分子標的治療薬が登場、効果のある患者さんをバイオマーカーで選ぶ個別治療が始まり、2010年代からは免疫チェックポイント阻害剤が登場、2015年には悪性黒色腫で劇的な治療効果が確認されました。

現在は次世代シークエンサーの登場で、一度に多くの遺伝子解析が可能になり、遺伝子パネル検査方法が導入されたことで、ゲノム医療体制の構築が全国で開始されました。さらに、がん遺伝子パネル検査が2019年6月から保険適応になり、56万円かかる検査が1割負担の人だと5万6千円で受けられるようになりました。がんは遺伝子の病気であるため、その遺伝子をターゲットにした新たな個別化医療がこの令和を起点に広がっていきます。大阪医科大学も、がんゲノム医療連携病院になっています。

標準治療と言われる治療は、平均的、という意味ではなく、現在利用できる最良・最善の治療であり、標準治療が確立しているがんに関してはまずはその治療を最優先に検討しましょう。高額な自由診療の中には治療効果が十分に検討されずに行われるものもあり、治療に納得がいかない場合は主治医と十分に相談したりセカンドオピニオンのような形で他の医師に相談することも大切です。

講演2
静岡県立静岡がんセンター 歯科口腔外科部長 百合草 健圭志 先生
がん治療とお口のケア

口に関するがんは様々あり、舌がんもその1つです。舌がんの手術で切除する病変部分が大きいと、水やごはんがぽっかり空いた空間にたまって飲み込めなくなるので、腹部や大腿部などから筋肉や皮膚を移植して舌を再建する大手術が必要になります。歯周病による炎症やむし歯や不適合義歯で出来た傷を放置することが、口のがんの原因となることもあります。口の中のがんを予防するには、お口を清潔に保つこと、毎日口の中を見て、違和感に気づくことが大切です。

実は、口の中のがんだけでなく、他の身体の部位のがん治療時にも、口の中はトラブルが起こりやすく、口腔合併症と呼ばれています。口の中のケアを疎かにしたり、歯を治療せずに放置したりすると、口腔合併症の原因が増えることになります。そのため、口腔合併症を予防、軽減するためには、日頃の個人個人のお口のケアと歯科受診による口腔チェックが必須です。どの部位のがんになったとしても、治療前には歯科医院を受診し、はみがき指導を受けて口腔を清潔にし、隠れた歯性感染症(膿)や自分では見つけにくい箇所のむし歯や歯周病を治療し、合わない入れ歯は調整することが大切です。
抗がん剤の副作用で口内炎(口腔粘膜炎)ができると、激しい痛みのために水や食物が取れなくなり、体力が低下します。また、自分では気づいていないむし歯や歯周炎がある状態で抗がん剤の治療を受けると、今まで症状のなかった歯や歯肉が急に痛み、腫れ、膿むことがあります。口内炎の傷口や歯・歯肉の膿から口の中の細菌が血管の中に侵入し、全身の感染症である敗血症にまで進むと、命を落とすこともありえます。全身合併症になると、予定していたがん治療が続けられなくなるために、がん治療の成否にも悪影響を与えます。口の周囲に放射線治療を受けると、唾液が出なくなり、口の中がカラカラになります。口の渇きは治療後もずっと続くため、数年たってから多数の歯で虫歯が進んで根元から折れてしまうことがあるので要注意です。全身麻酔手術受けた後の肺炎の多くは口腔細菌のたれ込みが原因なので、口腔内を清潔にして予防するのことが大事です。
口腔合併症の予防には、お口のセルフケアがもっとも重要です。毎日2-3回のハブラシによるブラッシングを習慣にしましょう。すでに習慣化している方は、歯間ブラシやフロスなどで歯と歯の隙間の掃除にもチャレンジしましょう。がん治療が始まる前に歯科医院を予約して、プロケアを受けて口腔衛生状態を改善させ、セルフケア方法の指導を受けておくと万全です。他には、口の中や唇の乾燥に対するケア、入れ歯のお手入れも重要です。一方で、吐き気や倦怠感などの抗がん剤の副作用が起きると、お口のセルフケアが難しくなることもあります。その場合は無理をせずにお休みとし、数日後に体調が回復してからお口のケアを再開します。治療のために一時的に食事が中止になる場合、口腔ケアは不要と思う方もいるかもしれませんが、食べられない間も口の中では細菌が増え続けています。食べたり飲んだりして口をよく動かすことで出ていた唾液による口腔の自浄作用も働きにくいので、食事をとっていない場合はより一層口腔のセルフケアが必要になります。
がん患者の味覚障害の一因には口腔乾燥があり、口を潤すことで改善することもあります。口がカラカラなら刺激が少ない保湿剤を塗布したり、スポンジブラシのケアで口の中全体に刺激を与えて唾液の分泌を促したりすると効果的です。口腔機能が弱っているオーラルフレイルの方にも同様のケアが有効で、低刺激で口腔を清潔に保ち保湿ができるオーラルケア製品を使うと良いでしょう。

なお、百合草先生の講演の実践編として、大阪医科大学薬剤部の樋口沙織先生と同大学看護部の菊池雅子先生に、がん治療時の口の痛みに対処する薬や食事の工夫についてご講演頂きました。

●「高槻市民いきいき健康講座」について
サンスターグループの日本法人各社の本社がある高槻市にて、地域社会ニーズに根ざした健康増進、産官学連携による研究開発促進・新事業開発を推進する活動の一環としてサンスター財団が主導し、高槻市、高槻商工会議所、大阪医科大、サンスターグループが共催、後援、協賛する形で2017年から開催している市民向けの健康講座です。これまでに①お口と全身の関わり、 ②糖尿病予防、③オーラルフレイル予防、④骨折予防、⑤がん治療と口腔ケアをテーマに開催しています。